人間の行動の80%までは習慣化されていると聞いたことがあります。
僕は珈琲はブラックです、砂糖もミルクも入れません。
ミルクを入りの珈琲を飲む時でもカプチーノかカフェラッテ、それ以外はまずありません。
でも、この店に行くと条件反射的に、習慣化されたようにウインナコーヒーでした。
多分ここも二十年以上通い詰めた馴染みの店ですが、その間にウインナコーヒー以外を頼んだのは数えるほどだったと思います。
こんなことを書くと、「またまた」とか、今は死語になりつつある「気障」とか、今風なら「キモ〜」とか云われそうですが、この店のウインナコーヒーの最初の一口目の生クリームの触感はグラッときそうなKissのような感覚だったんです、それに痺れてました(笑)
その店は八幡通に面したビルの地下にありました。
仕事を終えて渋谷からお散歩がてら中目黒の自宅までの帰路の途中、閉店間際によくお邪魔したものです。
店内はL字の長いカウンターがあり、それ以外は二人掛けのテーブルが二つと云うこじんまりとした店。
僕には指定席がありました、そこはカウンター席の奥から二番目。
毎回そこに座ると寡黙なマスターが決まりきっているのに「…いつもので?」と尋ねました。
長く通った中での会話で出た話題だったのでしょう、何故か僕の好みを知っていて何種類かあるコーヒーカップの中からいつもジノリを選んでくれ、僕しかいない時はジャズっぽいBGMを何も云わずに大好きなボサノバに変えてくれました。
何度かはbabarinaとも連れ立って出かけたと思っていたのですが、2011年6月の或る日、中目黒で晩ご飯を食べたあとこの店に立ち寄りました。
彼女はどうも初めての様子、僕がウインナコーヒーを頼むと凄く驚いてましたが彼女も同じオーダーでした。
でもいたく気に入ってようであんなに美味しいウインナコーヒーは初めて、また連れて来て!と上機嫌でした。
そこで翌月も恵比寿界隈で一緒に晩ご飯を食べたあとバルケットに向かい、いつものように地下に向かう慣れ親しんだ階段を降りました。
そして絶句…
一瞬我が目を疑いました。そこはあの特徴的な長いカウンターはあったものの南国の観葉植物がおかれた照明も明るさを増してガールズバー?のようなものに変わってました。
唖然呆然としている僕たちに、新しい店の店主らしき若い女性が云いました。
「前の喫茶店ですよね?7月12日で閉店したんですよ~」
ありがとう、と云いながら店をあとにしました。
何故?閉店する予定があったなら先月家内と来た時に教えてくれなかったの、マスター…
二十年来のお馴染みじゃない、僕は…
でも…
何も云わずいつも通りの美味しいウインナコーヒーを出してくれたのが寡黙なマスターの優しさだったかも…
僕は2011年6月以降、一度もウインナコーヒーを口にしていません。
今までありがとう、Thank you and goodbye